順番的には、今回の旅で3つ目に観に行ったミュージカルが『ジキルとハイド〈지킬 앤 하이드〉』ソウルアンコール公演です。本当は、チョン・ドンソクさんのヘドウィグが観たかったのですが、この渡韓中は、ジキハイアンコール公演に出演されていてヘドウィグはなかったので、前回仁川で2回観たばかりですが、ドンソクさんが観たかったのでチケットを取ることにしました。結果、観に行って大正解でした。

あいにくこの日は韓国を台風が直撃。朝7時前から、エリアメールの爆音で起こされました。韓国でもエリアメールってあるんですね!そして、まさか韓国でエリアメールを受け取るような状況になるとは思いもしませんでした。しかも、3回ぐらいアラートが鳴り、おちおち寝ていられませんでした(泣)

台風がソウルに最も接近するのが12時から13時ごろとのこと。ちょうど移動する時間です。外は雨が降ったり止んだりで、風もそれほど強く吹いている感じはしません。朝ごはんを食べて(コッペパンのようなパンにバターといちごジャム)二度寝したりしてうだうだ過ごしてから、支度をして外に出ましたが、雨は降っていても傘をさせるぐらいの風でした。宿から駅まで5分を頑張れば、後は地下鉄で移動するだけです。

シャルロッテシアター(샤롯데씨어터)

シャルロッテシアターは、地下鉄2号線蚕室駅(잠실역)にほぼ直結の場所にあります。ロッテデパートやロッテホテルなどと並んで立つロッテグループの劇場です。

シアターは地下道で直結のはずですが、迷ってしまったため、直で行く行き方は分かりません(笑)デパートの中を通って、ホテルに出て、ロビーでウロウロ迷っていたら、ホテルのスタッフの方に「そこの扉を出てすぐです」と言われ、扉を出たら、いったん外に出てから、劇場の扉を開けて入るという道筋になりました。しかもこの出入り口は劇場の脇から入ることになるので、正面にはどこから行けば良かったのかわかりません。また、帰りは前の人たちについて行ったところ、2階の渡り廊下を通った後、狭い階段をちょこちょこ降りて行くことに。あそこを一人で初めて上ってくるのは無理そうです。

台風で、皆が早々に中にいたからか、開演45分前で既にロビーは大盛況でした。とても高級感のある劇場で、ドレスを着て観劇したくなるような雰囲気です。ただ、ホワイエがあまり広くないので、同線がちょっと混乱していて、チケットを引き換える人、撮影スポットで写真を撮る人、物販に並ぶ人などでごった返していました。メインの撮影スポットは1階にあり、キャストボードは2階(客席入口階)にありました。

撮影スポットには、皆が列を作って並んで順番に撮影しているのに、後から来たおばちゃん4人組みが(現地の方です)、横からボードの前に立って、横から写真を撮ろうとして、というか撮影強行していて、並んでいる人たちから怒られていました。そりゃそうだ。

正面出入り口を入ってすぐのところにも、小さいですが撮影スポットが用意されていました。こういうの、日本でももっとやってくれたらいいのになと思います。エンタメの世界こそ、SNS映えを狙っていくべきだし、見栄えのする写真と一緒に「これ観に行ったよ!」と宣伝してもらえる口コミ効果はかなりあると思うのですよ。俳優の写真と一緒に撮るとかでは全然なくて、作品のテーマカラーとロゴのボードでいいんですよ。エクスカリバーとかベンハーはとても凝ったオブジェもあったので、あれはもう写真撮るのが楽しくなりますし、観劇前からワクワク感が高まります。(帝劇のエリザベート には用意されていましたが。)

シャルロッテシアターの売店は、Angel in us coffeeでした。オーガニックが売りの美味しそうなカップアイスも売ってたので、もう少し早めに行けば良かったです。食べる時間はなかったので(泣)幕間も、トイレに行くだけで時間が過ぎてしまいました。トイレも高級感あふれる雰囲気でしたが、手洗い場の数が少なかったような。

物販

物販は1階で、とても立派な販売スペースがあります。ガラス扉の棚に、パンフレットやグッズが展示されているほか、雑誌「THE Musical」のバックナンバーが棚全面に飾られていて、圧巻の風景でした。

アンコール公演プログラムを友人の分と合わせて2冊購入したほか(1冊12,000ウォン)、気になっていた楽譜も買ってしまいました!この楽譜、もの凄く立派な装丁でとても重い(笑)なのにたったの15,000ウォンだったので驚きました。楽譜はソングブックで、歌詞も音符に合わせて書かれていたので、頑張れば韓国語で歌えるようになるかも⁉︎

キャスト

2019年9月7日(土) 14:00開演

ジキル/ハイド:チョン・ドンソク
ルーシー:アイビー
エマ:ミン・ギョンア
(敬称略)

ドンソクさんの「ミャ〜オ」がもう一度聞きたかったので(そこかい!)その機会がまた訪れたのは嬉しいです。そして、「엑스칼리버(エクスカリバー)」のグィネヴィアで観てから、その歌声にすっかり魅了されてしまったミン・ギョンアさんのエマ!そして、仁川公演で見た時に、迫力ある人だなと思ったアイビーさんのルーシー。日程的にここしかなかったので、ドンソクさん以外のキャストは気にしてなかったのですが、何気に私的にベストなキャストの組み合わせなのでは…。

開場から着席

席は、VIPよりひとつ下のR席。6列目上手ブロックの端ですが、VIPからRに変わる境目なのでかなり良い席が取れました。仁川で見た時に、この公演は上手の端の方が断然見やすいと思ったので、あえてVIPではなくRにしたのですが正解でした。

後半のハイドとルーシーが絡み合う歌が見えにくいのと、ジキルとハイドが瞬時に入れ替わる歌の時に、ジキルの腕に隠れて顔が見えにくいですが。若干退屈な前半の会議のシーンも、上手だとジキルの顔がよく見えて、退屈せずにすみました。この会議のシーン、下手から見たら、ほぼずっとジキルの頭しか見えないのですよ。

シャルロッテシアターは段差が少ないと聞いていたので、ほかの席の見え方は分かりませんが…。

全体的な感想

やはり生オケが最高ですね!
オーケストラピットは半分ぐらい蓋がしてあって、役者も前の方まで出てくることがあるので、前の方の席なのに遠く感じるということはありませんでした。オーケストラピットからの音の響きと合わせて、音楽を全身で感じられますし。

チョン・ドンソクさんのジキルとハイドは、キュートさと残忍さとセクシーさが入れ替わり立ち替わり現れて、相変わらず素敵でした。仁川では、全く初めてだったので、細かく見る余裕がありませんでしたが、エマとのラブラブっぷりとか、うっかりハイドになる瞬間とか、いろんな萌えポイントに目がいくように。

そして、ミン・ギョンアさんの声が愛しすぎです!お顔や姿も美しいのですが、とにかく声が。話し声が、グラスハープのよう。

やはり、全体としては、生演奏のあるソウル公演の方が盛り上がりますね。仁川では、 カーテンコールとか、そこはかとなく寂しい感じがしてしまいましたから。

第一幕

ヘンリー・ジキルの友人であり弁護士のジョン・アターソンの回想から、物語が始まる。

ベッドに横たわる父親を診るジキル。父は精神を病んでしまっただけで、身体に問題はなく、完成間近の自分が開発した薬があれば治るはずだと信じている。(最初に見たときは父親が亡くなったのかと思いましたが、生きてはいるようです。)

その薬は、人間の良い精神と悪い精神を完全に分離して、コントロールできるようにするもので、あとは病院の患者で臨床試験をしてみるだけの段階まで来ていた。その臨床試験の許可を取るために、病院の理事会のメンバーを前に、薬の効用を熱く語るジキルだが、理事会からは「神にでもなったつもりか」とさんざんけなされ、提案は却下される。

理事会のメンバーの一人、ダンヴァース卿は、ジキルの婚約者エマの父親でもある。その日は、婚約披露パーティーがあり、ジキルはエマと熱い抱擁を交わし愛を誓う。

この辺り、ドンソクさんのジキルとギョンアさんのエマがとてもお似合いで、ラブラブっぷりが可愛いらしく、見ていると、こちらもニコニコ笑顔になります。ヘンリーのどこまでも優しく柔らかい話し方が、後の豹変ぶりを際立たせるものになります。

そんな婚約者との楽しいひとときがあっても、理事会から臨床試験を反対されたことに対するジキルの落胆は大きい。パーティーの後、弁護士の友人に連れられて、とあるパブに立ち寄る。そこで、男に酷い目に遭わされている「可哀想な」エマと出会う。怪我をしている様子のエマに、「何かあったら尋ねておいで」と名刺を渡すジキル。(そんなん気があると思うわ、普通。)

帰宅したヘンリーは、執事と父のことについて話をし、やはり薬の完成を急がなければと、自分が実験台になる決心を固める。”지금 이 순간”です。

ここまで、病院(刑務所)、街、会議室、エマ宅、パブ、執務室と、わりと地味な(色合いの)セットのシーンが続きますが、ここで、どばーん!!と実験室が奥から現れる様子は、何度見ても圧巻です!天井まで続くほどの高さにそびえ立っている棚に、色とりどりの薬液が入ったフラスコがビッシリと並んだ状態で、舞台奥から移動してくるのが、ど迫力なのです。そのくだりを中心に、YouTubeの公式チャンネルで動画が公開されているので、ぜひ。

何度も「지금 이 순간」と歌いますが、まだ執務室にいる時、実験室が現れる直前に「ちぐm い」と分けてはっきり歌っているところがあり、その歌い方からの実験室の登場だと、ドラマチックさ倍増な気がしました。

そして、腕をまくり、怪しい薬を混ぜ合わせて注射器に取り、念入りに腕を洗い、清潔なタオルで拭き、腕を縛って、消毒綿で注射をする箇所を消毒したところで、一気に針を腕に突き立てます。仁川で見た時も思いましたが、本当に念入りに消毒して注射するので、とてもリアルなのです。それを見ていた右隣のカップルの彼女さんが、彼氏さんに「진짜?」(本物?)と聞いていたほどです。吹き出しそうになってしまいましたが、本物だったら怖すぎです(笑)

日時と状態を詳細にノートに記録するヘンリー・ジキル博士。少しすると、錯乱して笑い出し、「마〜약?」と高い声で陽気になったりするが、突如胸を押さえ、断末魔の叫びのような声を上げながら猛烈に苦しみ出す。七転八倒してしばらくすると、気を失ったか静かになる。

やがて、静かに起き上がったヘンリーの長髪は、ぼさぼさに乱れている。そのまま大鏡の前に立つヘンリー。少し首を傾げたりしながら自分の姿を確認した後、周りをゆっくりと見回し、記録ノートに近づく。フッと鼻で笑った後、記録の続きをつけようとするが、出した右腕を押さえつけ、左手にペンを持ち替えて記録を付ける。彼はすでに、ハイドだったのだ!

ハイドとして猛獣のような恐ろしい声で歌い始めるヘンリー。前半のヘンリーの声がどこまでも優しいため、このハイドの声とのギャップが凄すぎて、二度目でも、同じ人が歌っているのか疑ってしまうほどです。ジキルからハイドへの変身で、最高の盛り上がりを見せ、一幕が終わりかと思いきや、まだ全然終わりではないのが不思議です。

その後、全く姿を現さないヘンリーを心配するエマ。その日もヘンリーに会えないまま帰ることになる。

一方、すっかりやつれたヘンリーは、執事に薬を買いに行ってもらう。ハイドを抑えるのに必要な薬だ。そんな時に会いに来た友人の弁護士に、ヘンリーは、自分にもしものことがあったときのことについて遺言を預ける。友人は受け取らない。友人が帰った後、ルーシーが訪ねてくる。

最初はルーシーのことを覚えていないヘンリー。しかし、名刺を渡したことを言われてようやく思い出す。ルーシーは「友人として助けになる」と言ったヘンリーに、半分は、怪我を見てもらうことを理由として会いに来たのだった。しかしその怪我が、ハイドの仕業だと聞かされたヘンリーは、「すまない。本当にすまない」と何度も謝る。ルーシーは、ヘンリーとハイドが同一人物だとは思っていないのだ。二人の間に訪れたふとした静寂の瞬間、思わず口づけを交わす二人。慌ててルーシーから離れて謝るヘンリーは、そのままその場を去る。

ここからルーシーの歌「Someone Like You」が始まるのですが、「そこ、ひとんちですよね?!」と毎回思わずにいられない歌い上げっぷりに、ちょっとおかしみを感じてしまうのですよ(笑)ジキルの執務室から実験室への転換は、同じ家の中なので違和感は少ないのですが、執務室から突如街になるのは唐突すぎませんか…。ルーシーの歌が上手いのでいいんですけどね。

さて、パブの近くの裏通り。病院の理事会のメンバーの一人、ジキルをことさらバカにした男が、元締めの女から少女を買って欲望を満たそうとしている。元締めの女と少女が一旦その場から去ったその時、「ミャオミャ〜オ!」と男の真似をして声をかける者が暗闇から姿を表す。ハイドである。

仁川公演では「ミャ〜オ」と1回だけでしたが、2回に増えてます!(笑)ここの絶妙な間の取り方!

そのまま、男をステッキでぶちのめし、殴り飛ばし、足でさんざん踏みつけた後、持っていたアルコールを男にかけて、少し離れると、拳銃で男にとどめを刺す。と同時に男は燃え上がり、死んでいく。暗闇に消えるハイド。

第二幕

犯人が捕まっていない殺人事件が次々と起こる街中。人々は恐怖におののいている。病院の理事会の面々や、ヘンリーの婚約者エマもそのひとりだ。ハイドは、実験に反対した理事会のメンバーを次々に殺害していく。それは男でも女でも変わりなく。

ドンソクさんのハイドは色気が前面に出ていて、怪物のように恐ろしい暴力性を持ったハイドであると同時に、娼婦であるルーシーが抗えないほどの魅力(魔力)を全身から放っているのだろうと思わせる説得力があります。低音けものボイスがたまらんのですよ。声で殺すタイプですね。

ジキルとハイド、両方ともが一人の中にあったわけで、高潔なジキル博士であっても、表面に表れなかっただけで、実はそういう一面も持っていたわけで。現に、ジキルの時にルーシーとキスしてますし。ルーシーは、ジキルとハイドが同一人物だとほぼ気づいていたような。ハイドとルーシーの「Dangerous Game」は、「こんなの見てしまってていいのだろうか」と目のやりばに困るほど淫靡なのですから。

エマがかわいそう。今回は、大好きなミン・ギョンアさんがエマなので特にそう思ってしまいます。

エマは、実験室でヘンリーの記録の一部を見てしまう。そこへ戻ってくるヘンリー。狼狽し、エマを遠ざけてしまうヘンリー。ただひたすらにヘンリーを心配するエマ。

仁川公演では、このエマが若干ウザいと思ってしまったのですが、今回は「かわいそうなエマ!」となる私でした。エマとルーシーの二人のデュエットでは、断然、エマの味方です(笑)

薬がなくても、ハイドに変わってしまうようになったヘンリー。必要な薬はなかなか手に入らず、新たに作った薬も効かないまま終わる。友人の弁護士に、全てを打ち明けたヘンリーは、ルーシーの命が危ないことを知らせるために手紙を託す。

手紙を受け取ったルーシーは文字が読めないため、手紙を持ってきた弁護士に読んでもらう。ヘンリーの言葉を胸に抱きしめて喜びを歌い、街を出る支度を始めるが、落雷と共に停電になった瞬間現れたハイドから、逃げられないことを悟る。ジキルに惹かれているルーシーに激しく嫉妬するハイド。そして、ジキルに従おうとするルーシーを容赦なく刺し殺す。その直後、激しい苦しみに襲われたハイドはジキルに戻り、ルーシーを殺してしまったことを知り、その場を逃げ出す。

その後、ようやくハイドを抑えられるようになった(と思っていた)ヘンリー・ジキルは、エマとの結婚式の日を迎える。幸せいっぱいのエマ。ところが、抑えられていたと思っていたハイドが、表れてしまう。実際には、ジキルにとどめを刺すために、機会を待っていたのだ。エマの目の前で参列者の一人を殺してしまうハイド。エマを手にかけようとした時、エマの声で一瞬ジキルに戻るが、止めに入ろうと思わず剣を抜いた親友(弁護士)に、そのまま自分を殺して自由にしてくれと懇願する。拒む親友に向かって、自ら刺されにいくジキル。エマを殺すことだけは避けることができたのだった。

実際のところ、あれだけ人殺ししておいて、「自分ではない」からエマと結婚ってどうよ、と思います(汗)それは置いておいて、「The Confrontation」のジキルとハイドの一瞬での切り替えは相変わらず素晴らしくて、席位置的にジキルが見づらかったですが、後半に行くほどそんなことを忘れさせるほどの凄い歌声でした。

そして、上手端の席だったため、ヘンリーが死ぬところが間近で見られました。いやもう、間近すぎて助けに駆け寄りたいほど(笑)それほどに苦しげで真に迫った最後でした。

カーテンコール

何度も言いますが、ソウルで見られて本当に良かったです!劇場のサイズ感もちょうど良く、 カーテンコールの盛り上がりもソウルならではという感じ。最後まで、オケの演奏があるところも感慨深いです。

プログラムと楽譜集